農業作業息吹/第81号 | 人と農・自然をつなぐ会





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第81号 2010年4月

風光る

「ゴォーッ」と凄まじい音をたて窓の外で春嵐が吹き荒れ、時々稲妻が走る。そんな日をこの数十日の間に幾日数えただろう。風が強く吹けば、山の茶木やミカン、今年定植したばかりの苗木が気にかかる。
嵐が過ぎ、太陽が出るとまるで世界が一変したような錯覚を覚えるのは春嵐の特徴だと思う。あれほどの嵐もすべてが夢であったように、澄んだ空の青、木々の深い緑の間からちらほらと顔を出し始めた新芽の萌黄色、道端のタンポポや菜の花の鮮やかな黄色、山桜の見事なまでの薄桃色、里山のすべての色が鮮やかさを増し太陽の柔らかな光のもと、吹き渡る風に包まれてキラキラと光る。フーッと大きく深呼吸すると自然界の生命の息吹、その強さと逞しさが大きな波のように突き上げてくる。風がどんなに吹き荒れても、どんなに冷たく大きな雨粒が大地を叩いても、自然界の草木はびくともしない。すべてを受け止め、逞しく大地に根を張り生きるからこそ、春風の中で光るのだろう。
茶畑の新芽が少しずつ伸びようと膨らみ始めた330日、真冬並みの強い寒波が日本列島を覆った。体の芯から冷えるような寒さの夜、風もほとんど無く静かな空には満天の星が輝いている。私たち茶農家にとってとても嫌な夜だ。こんな夜の後には、遅霜が降りやすい。一年丹精してきた茶が一晩でだめになってしまうことは、何よりも怖いことだ。
凍てつくような寒さの朝、窓の外は真っ白な世界が広がっていた。朝日が昇り始めると、野山を覆う霜のベールは陽光を浴びキラキラと光りながら少しずつ消えていく。その神秘的な美しさが何とも憎らしい。というのも、霜が溶けて太陽の光に曝された茶の新芽は霜焼けで真っ黒く変色し、枯れてしまうのだ。昨日まで淡い萌黄色になり始めた茶園を前に心を躍らせていたのが、一夜明けるとまるで夢のように一変してしまった。時間が経つと少しずつ各茶産地の情報が伝わってくる。昨夜から早朝にかけて気温は氷点下になり、霜害というよりも凍害が深刻であったこと。静岡に限らず、全国的に茶産地を襲った大規模な凍霜害であったことなど、事態の深刻さが伝わる。
凍霜害を受けた新芽は色が黒色に変色して枯れてしまうため、その年の茶の収量は大幅に落ちることは必至であるとともに、この黒い葉が収穫時に混入すると味と香りに影響し茶の品質を落としてしまうため、茶の芽がある程度伸びている場合は、すべて刈り落とさなければならない。茶農家にとって1年の収入の9割ほどを占める新茶が大打撃を受けると、今後の経営に大きく関わる大問題となる。幸か不幸か私たちの地域は山間地で新芽の生長が南部の地域よりも少し遅く、新芽も膨らみ始めたばかりだったため、凍霜害の影響は比較的小さかったかもしれないが、冷え込みにより新芽の生長が抑えられ収穫が1週間以上遅れる見込みだ。「これ程の大被害は20数年ぶりだ」と先輩農家がこぼしていた。私が産まれてすぐの頃だから、その頃の状況もわからなければ、今年のお茶がどうなるのか想像もつかない。ただひとつ分かることは、私たちは何とかこの状況を乗り越えていかなければならないこと。そしてそれは茶農家の努力だけではなく、茶を買い支えて下さる消費者の方々のご理解とご支援があってこそ。
殆どの茶産地は市場で買い叩かれることを恐れて凍霜害の被害状況を外部に漏らさないように必死になっている。年々下落する茶市場のあり方に大きな疑問を抱くと同時に、消費者へ真実を知らせることのできない悪循環では、いつまでたっても生産者と消費者が同じ立場で農業と食糧を守る協力関係を築くことは出来ないのではないだろうか。だからこそ、私は包み隠さず発信したい。
霜焼けした芽の下からは次の芽が顔を出すような強さを私たちも持っているのだから。

SN3E0176.JPG霜にあたって先端が黒く変色してしまった芽





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