第114号 2013年4月
大地から生まれるもの
3月下旬頃から新芽が膨らみ開き始めると濃緑色だった茶畑は徐々に金色のベールが掛けられたように様変わりしていく。茶畑の変化に合わせて茶百姓の心の色も新茶色に染まり、朝から晩まで頭の中は新茶のことばかり。桜の花が開けば今年の新茶の収穫時期に想いを巡らせ、風が吹けば新芽が風摺れしないか気を揉み、満天の星空の下で翌朝の遅霜を心配する。この頃から、作業だけでなく思考も生活もすべてが茶を中心に回り始める。何を見ても茶のことばかりだ。先日聞いた村の長老の話によれば「今年の桜の花は数が少ないし、花も小さい。そんな年は農作物が不作だ。新茶も芽がすぐに開いてしまうかもしれんなあ」花見をよそに新茶を占う。これは茶百姓の性なのだろう。
新茶の収穫が近付くにつれ、毎年不思議に感じることがある。それは、この時期私たち茶百姓の中から湧き出すように漲る力と心の躍動。この溢れんばかりのエネルギーはいったいどこからくるのか、自分でも不思議に思うほど。日を追うごとに伸び、太陽の光にキラキラと輝く新芽、その美しい光景を前に私たちは朝から晩までとにかく働き続ける。農道ですれ違う軽トラックはどれもこの時期になるといつもよりスピードが少しだけ上がっている。茶畑でせわしなく働く人々はエネルギーに満ち溢れ、目は凛々と燃えている。その燃える目の奥には大きな笑い声が「わっはっは!」と聞こえるような喜びの色が漲っている。美しいのは金色に萌える茶畑だけではない。収穫の喜びを身体全体で表現するする百姓の姿も負けないほど美しい。大地から生まれるもの、それは農作物だけではない。人が人として生きる喜びや豊かさ、そこに人間の生きる本質を私は垣間見る。
インド独立の父であるガンディーはイギリス帝国からの独立のスローガンとして「スワデーシー」を掲げた。国産品愛用を意味するこの運動の中で英国製品のボイコットと合せ、国産品の奨励、特に伝統的な技術を用いた生産を奨励した。大地と結びつき生み出された、地域に根付いた特有の知識と技術の中にこそ人々が自立して生きる原点があり、真の独立がある。それは農業だけではなく、どの職業にも共通することだと思う。長い歴史の中で紡ぎだされた伝統の中には文化があり、その文化から人々は豊かさを享受する。コンビニやファストフード、100円ショップなどでは到底作り出せないような豊かさを私たち日本人は祖先から知恵と知識として受け継いでいる。TPPという大きな波を目の前にし、私たち日本人は今一度立ち止まって自らの足元を見る時だと思う。何が真の豊かさなのか。そしてその足元に広がる豊かな大地から生まれるものは何であるのか。
今年で37年目を迎える無農薬茶の会。会の発足以来、毎年開催しているお茶摘み交流会も37回目。一人でも多くの方に新茶で光り輝く里山全体を身体と心で感じていただきたい。