第122号 2013年12月・2014年1月合併号
自ら問う
「本当に無農薬なのですか?」こういった問合せを一年に何度か電話で受ける。突然の質問に何と答えるべきか一瞬ためらってしまう。それは言葉というものがあまりにも頼りなく感じてしまうからだ。いくら丁寧に説明しても言葉には限界があるとつくづく感じる。そんな時は、「当地へ是非一度おいでください」と伝えている。私たち百姓の想いは生産物に込められ、ものを通して自らの意思を表現していると言っても過言ではない。だからこそ事の真偽は実際に畑に足を運び、身体で感じ、自分の目で見て、自らの体験と感性をもって確かめるしかない。それが信頼関係へと繋がると思う。38年目となる無農薬茶の会の歴史は、まさにこの直接的な関係を土台として成り立ってきた。
「本当に無農薬なのか?」突然聞かれて驚くが、実はこういった質問をいただくことは私たち生産者にとって有難いことであると同時に、これから日本の未来にとってとても大切なことだと思う。もっと知りたい、本当のことを知りたいと自ら思い電話をしてくれる。そしてそこから会話が始まり、交流が始まる。
昨今、有名ホテルや大手デパートなどで食品偽表示が問題となった。ことの本質を私たちは見据えなければいけない時にあると思う。というのも、この事件の責任はこれら偽装を行った会社はもちろんのこと、私たち消費者にもあると思うからだ。私たちは単なる犠牲者では無いと思う。
ものを買い消費するという行為は投票に似ている。自分が選んだものに支払った代金はそれを販売する人、生産する人へと流れる。そしてその生産や流通の行為を応援することになる。私たちは選挙の際に立候補者の主張や方針を精査し、未来を思い描き、投票する。購買行為も全く同じこと。もし、知らずに何かを買ったとしてもそれを知らない、知ろうとしなかった責任は自らにもある。今の社会のカタチは私たちの小さな選択の繰り返しの結果であるということ。選挙であれ、日々の生活であれ、しっかりと主体性をもって自ら考え選択できているだろうか。
新年を迎えるというのにこのような重い話をと思われるかもしれない。けれども、それほど重要な岐路に私たちは今立っていると感じている。国政の暴走は言わずもがな、私の住む村では、大切にものづくりを守ってきた百姓が消え、山が荒れ果て、文化が失われようとしている。一度失われれば取り返しがつかないという焦りがある。その一方で、ブランド名と財力で偽物を「高級」と謳う大手ばかりが業績を伸ばしている。この矛盾をどう理解したら良いのだろう。
私たち一人一人に主体性を取り戻し、これからの未来を自ら問い、求め、作っていく。それしかないと思う。その為にも、生産する者も、消費する者も、都市でも、農村でも職業、年齢に関わらず人と人とが繋がり交流し、感性を研ぎ澄ます。そんな一年にしていきたい。
今年も4月末の週末には第38回目となるお茶摘み交流会があります。是非、当地へ足をお運びください。生産者一同お待ちしております。本年もどうぞ宜しくお願いします。