第159号 2017年8・9月
足もとの豊かさ
今年の夏は曇りの日が多く、毎日の草取り作業は格段に楽に感じる。7か所に分散する茶畑を順番にまわって草をとり、その合間に6か所のミカン園の草刈と猪除けの電気柵張り、田んぼに稲穂が出始める前にアイガモたちを田から引き上げ、ネットを撤去し電気柵を張る。すべての畑を回り終わって、最初に除草を始めた畑へ戻ると草は戻り、また振り出しに戻る。夏の終わりごろには茶畑の山芋の蔓はムカゴという小さな種をいくつも付けポロポロと地面にこぼれる。その前に芋蔓を取って回ることが来年の除草作業を大きく左右する。
私たちの畑では作物だけでなく、すべての生き物がとても元気で旺盛。研修に来ている薬草博士の村田さんによると、我が家の畑で「育つ」雑草たちはとても大きく育ち質が良いとのこと。雑草だけでなく、様々な虫や菌が共生し、お互いにバランスを保ちながら生きているから一つの害虫や病気、雑草が大発生するということは無い。たとえ害虫がいても、餌がたくさんある無農薬の畑にはそれを捕食する虫やヘビや小鳥が集まってくる。夏のこの時期厄介なのは畑に蜂が巣をつくり、気付かずに草取りをしていると蜂の攻撃を受ける。今年はなんとスズメバチが茶畑に巣を作り手伝いに来ていた一人が刺されてしまうというハプニングも。また一方では嬉しい発見も。みかんの樹幹に卵を産み付け幼虫が樹を食い荒らすゴマダラカミキリの被害がここ何年も酷く、対策に悩んでいたが、先日草刈をしていると葉の上で枯れたように死んでいるカミキリムシの死骸をいくつも見つけた。帰って調べてみると、これはボーベリア菌の一種で感染した昆虫の体内で増殖し、やがて昆虫を殺してしまう。この菌を人工的に固定したテープを樹幹に巻き付け防除する微生物資材が販売されているが、とても高価で買えずにいた。それが今年から自然と菌が増えてきてくれていることに有機農業の大きな希望と可能性を感じる。
8月は除草作業シーズンであると同時に、夏休みの訪問客が押し寄せる時期でもある。今年も大学教授のゼミ合宿、学生サークルの援農合宿、個人での訪問や日帰りの農作業ボランティアなどなど。そしてお盆が明けると大磯町の子ども会が大型バスを貸し切り、親子50人が当地へ遊びに来た。山の上の茶畑までは片道1時間ほどかけて歩いて登り、茶摘み。昼食は知人が小麦からつくっているウドンと地元野菜のかき揚げ。午後は川遊びにスイカ割り、かまどで炊いたご飯でおむすび作り。
近所の人たちはどうして「こんな何も無い田舎」にわざわざ大勢で遊びに来るのかと目を丸くする。その答えは訪問する人々の顔を見ればわかると思う。皆が普段の生活では得ることの出来ない自然の中での体験、里山の持つ豊かさ、地域に根差し生きる人々の魅力に触れに来るのだと思う。今回で2回目になる子ども会の夏旅行のきっかけは保護者の数人が数年前に我が家を訪問したことから始まる。子どもたちに、そして多くの人にこういう地域や取り組みをする農家があることを知ってもらいたいという想いから企画してくれている。訪問客を迎えることで改めて自らが生きる足もとの豊かさを再認識するきっかけを頂いている。