農業作業息吹/ 166号 | 人と農・自然をつなぐ会





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第166号 2018年6

葉の下で

 バリバリバリ
大きな音が響く中、ずっしりと重い機械のハンドルを握りしめる。茶樹のこちら側と向こう側にまたがる機械を二人で持ち、機械に取り付けられたバリカン型の幾つもの刃が太い枝も細い枝も刈り落とし、機械が通った後の茶樹はスッキリ丸坊主になっている。葉枝を落とされた茶樹は吹き抜ける5月の風の中、どことなく身軽に見える。4、5年に一度、細分化した枝を更新し翌年の新芽をより良いものにするために行うこの作業、とても重労働であるため高齢化の進む当地では更新されず樹高が高いままの畑を多く見かけるようになった。
 いつもは厚い葉層の下に隠れて見えない「下の世界」が面白い。茶樹の根元、幹や太い枝は薄茶色をし、刈り落としが終わった畑はまさに「茶畑」。急にさっぱり刈り込まれた茶樹の下の方では突然の出来事に驚いた小さな虫たちが落ち葉や枝の下に隠れようとサワサワと動き回っている。卵が産み付けられているのも観察できる。シュワシュワ白い泡の塊のような卵嚢は茶畑では常連のカマキリ。よく見るとプツプツと穴が空いていて、すでに小さなカマキリ君たちは巣立っていったようだ。別の枝には茶色い土の塊が枝を包み込むように付いている。これはドロバチの巣。昨年の秋に泥で作られた壺のような形の巣の中は幾つかの部屋に分かれ、それぞれに青虫などの餌と一緒に卵が産みつけられる。幼虫は餌を食べ巣の中で大きくなり、やがて巣立っていく。これから夏になると他にもアシナガバチや時にはスズメバチなどの蜂が葉の下に巣を作り、夏の草取りの最中にうっかり刺されることが幾度かある。今はまだ小さな蛇の子もこれからどんどん大きくなり、作業中に驚かされることも多々。他にも小鳥の巣が丸坊主にされた茶樹の中から見つかることもある。今年一番驚いた発見物は野ネズミの巣。これは収穫の際の話なのだが、ぐちゃぐちゃと塊になった茶の新芽が収穫しようという新芽に紛れて置かれている。不思議に思い、その野球ボールほどの塊を開けてみると中には更に小さな干し草などで作られた茶色の塊。それをそっと開けるとその中には産まれたばかりの目も開いていないノネズミの赤ちゃんがモゾモゾと動いていた。稲刈りの際などには稲の穂先近くにノネズミの巣を見たことはあったが、新芽の中の巣は初めてでその大胆さに驚かされた。そのまま置くわけにもいかず、収穫の終わった茶樹の枝の間にそっと戻しておいた。後々調べてみると、この巣の主はカヤネズミで、休耕田や河川敷、草地に生息し、雑食で草やバッタ、イナゴなどを食べるとのこと。茶畑にはまだまだ私たち人間の知らないことが沢山ある。
 このような生き物たちの命のひとつひとつの場面に出くわすたび、いかに私たちの茶畑が様々な生き物の住処であり、彼らが繰り広げる命のドラマの大舞台であるかを再認識させられる。自然のサイクルとは不思議なものでその季節ごとに生まれるもの、産み育てるもの、死んでいくものがあり、全てのものが役割を持ち関連性の中で生きている。気温と湿度が上がる今頃の時期は害虫が活動を始めるため多くの農家がせっせと農薬を散布する時期でもある。けれど、自然界を見てみると害虫だけでなくその他多くの生き物も同じように活動を始める。前述のカマキリたちは6月にはまだ体長数ミリしかないが、秋には10cm程もの立派な姿になってまた卵を産み付けていく。ひとつの卵嚢から巣立った150〜200匹ものカマキリたちの中で成虫まで生き残れるものはほんの一握り。けれどもその一握りが数ミリから10cmに成長するまでにどれだけの虫を食べ生き抜いてきたのかを考えるとワクワクする。捕食するものは同時に捕食されるものでもある。畑を舞台に繰り広げられる生き物たちのドラマはとてつもなく複雑で壮大だ。
 今年も120名を超える方々が新茶の時期、お茶摘み交流会のため当地へやってきた。茶摘みだけでなく、茶の育つ豊かな山間地の環境を肌で感じ、農薬や化学肥料に依存しない農業の根底にある生態系の豊かさを少しでも感じて帰っていただけたのではないだろうか。茶畑を訪れる方には必ず枝をかき分けて葉の下の世界を覗き見てもらっている。私たちの畑は多くの生き物たちによって守られていることを伝えていくことが細々とではあるが私にできる恩返しだ。大量消費の末の未だ嘗てない破壊を前に、私たち人間が自らをこの大きな命のサイクルの中に見いだす感性と想像力が今ほどまでに求められている時代はかつてない。

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大地に呼吸する
第168号
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つくるということ
第167号
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葉の下で
第166号
2018年6月

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