農業作業息吹/第77号 | 人と農・自然をつなぐ会





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第77号 2009年12月

美味しい土

 畑で仕事をしていると、腰が90度よりも更に曲がった「東のおばさん」が私に声を掛けてきた。祖母の家の東側に家があり、私の家族の中では「東のおばさん」でとおっている80歳くらいのこのお婆さんは本当に働き者で朝から晩まで家の前の畑の野菜を丹精している。そのせいか腰は驚くほどに曲り、まるで前屈に近い姿勢で歩く姿はどこかおぼつかない。けれども畑で鍬を持つ姿は一転して頼もしく力強い。季節の移り変わりが長年の経験から体に染み込み、一年を通して多種多様な野菜を播種の時期を心得て上手につくる。そんな「東のおばさん」が私の農の先生。今日も里芋の保存方法について教えてもらった。
里芋は一般的に霜が降りる前に掘り上げてしまい、それから土中に埋めなおして保存する方法があるが、茶やミカンの農作業の片手間で野菜を作っている私にとっては、これらの作業はなかなか手間がかかり時として時期を逃してしまうこともある。「東のおばさん」によると、芋を全部掘ってしまう必要はなく、霜が降りて芋が凍らないように株の上から藁や野菜くずや枯れ草を掛けておき、必要に応じて掘れば良いとのこと。作業の手間を省き、しかもこんなに楽な保存方法はとても有難い。村には「東のおばさん」のように農の知識の宝庫が大勢いる。けれども残念ながら、それを受け継ぐべき若い世代は殆どいない。これまで日本の農村で脈々と受け継がれてきた農の知識も文化も私たち若者世代で途絶えてしまうのかと考えると責任と焦り、不安が入り混じった思いで胸が締め付けられる。
そんな「東のおばさん」の最近の悩みは畑に出没する猪。毎晩山から里へ下りてきては畑の芋や野菜を食い荒らしていく。ミカンも被害を受けるようで、最近は野菜や田んぼはもちろん、ミカン畑にもイノシシ除けの電気柵が張られているのを見かける。実際、村ではミカンがイノシシに荒らされたと嘆く声をよく耳にする。収穫を楽しみに丹精した作物が荒らされた時のショックは言葉では言い表せないものがある。
私は最近ふと不思議に思うことがある。私のところのミカン畑にも毎晩イノシシが出没し、まるで耕運機で耕したように強力な鼻を使って土を掻き回し、大きな穴を掘っていく。たわわに実るミカンには目もくれず、土を掘り返すのだ。イノシシが近くを通ったことを知らせるように、ミカンに泥が付いていることはあっても、ミカンを食い荒らされたことは全くない。3か所あるミカン畑のどこでも同じだから、私の畑に来るイノシシがミカン嫌いというわけでもないようだ。他の農家の畑ではミカンを食べても、私の畑では食べないのは何故だろう。そして私の畑では土を掘っても、よその畑では土を全く掘らないのは?それは、畑の土と深い関係があるように感じる。ミカン畑だけでなく、イノシシは我家の茶畑や家の周りの果樹園などにも頻繁に現れ地を掘り返していく。私の畑は農薬・化学肥料を一切使わずに、有機質肥料と堆肥、敷き藁などで土作りをしている。だから土中には無数の微生物が住み、これらの有機物を植物が吸収できるよう分解している。微生物だけでなく、ミミズなど小動物も多く生息し豊かな生きた土となる。イノシシの好物の一つにミミズがある。だからイノシシにとってミミズはミカン以上に美味しいということなのだろう。
この時期、ミカンを収穫・発送していると「ミカン1個で2個分の美味しさが凝縮している」「あまりの美味しさに市販のミカンが食べられなくなった」など消費者の皆様から嬉しい声が届く。けれどイノシシに言わせてみたら、きっとでミカン以上に我家のミカン畑の土は格段に美味しいのだろう。良い土作りがあればこそ、そこに良質な農作物が育つ。作物の作柄ばかりに気を取られる今日の農業に、イノシシが大きなクエッションマークを示しているような気がする。

SN3E0143.JPG猪が出没した後の掘り返された土





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